翻訳の仕事の中には、納期の見積もり、というのがあるのですが、この件について今日は書こうと思います。(英日の実務翻訳です)
翻訳の仕事をしばらく続けるうちに、なじみになる翻訳会社ができてきます。それらの翻訳会社は、
1.特定の案件を入札するとき、
2.特定の案件をすでに持っているとき、
自社の抱える翻訳者に、availability を打診してきます。
(理由)
1.の場合:入札するために、その訳者がどの程度のスピードで納品できるかを前もって知っておく必要がある。
速く、安いほど、エージェントが落札する可能性が高まるかというと、そうばかりとも言えないんですね。そのエージェント(=抱える訳者)の過去の仕事ぶり、つまり「品質」の側面が大いに考慮されていると思います。なので、ありえない速さで納期を見積もるのは自分がつらいばかりでなく、品質はどうなの?と思われる可能性もありますから、あまり良い策とは言えないかもしれません。
余談ですが、昔「速く安くうまい訳者募集」というようなコピーを見ました。いや牛丼か!と思いましたが、「速くてうまい訳者」には、それ相応の報酬を支払うのが筋です。
2.の場合:エージェントが、クライアントと合意した納期で果たして納品可能かどうか知りたい。
これは、この納期でホントに間に合うかどうか知りたいんですね。私もはじめのうちは、どのくらいのスピードで訳せるのかわからず、OKすべきかどうか迷いました。でもエージェントの方もプロですから、法外なことは言ってこないもんです。受けたら死んでも間に合わせる覚悟でやっていました。
でも、自分のキャパを上回る仕事を長期間続けるのは、非常につらいことです。精神的なトラウマというか、あまりひどいときは、「私はこれ(翻訳)をするためだけに、生きているのだろうか」というような妙なうつ状態に突入していきます。
このような状態を防ぐには、自分のキャパを知り、適切な納期を提示していくことが大切です。
実際に納期を計算してみよう
納期は、ワード数で計算していきます。
CATツール(Trados, Across, MemoQ, Memosource, 各翻訳会社の指定するツールなど)を使う場合は、ニューワード(一致 0%)から、完全一致(100%一致/リピート)までの範囲で、各セル間での文章の一致の割合に応じて、翻訳料は割り引かれ、納期もそれに応じて考慮されます。
ニューワードが何ワードあるのかに注意しましょう。
グロスで5000ワードでも、ニューワードが1500しかなくて、リピートやファジーマッチが多いと、あっという間に訳せてしまいます。
逆に、全く一致がなくほとんどニューワードだと、正味の時間がかかります。
自分が一日(8時間)にニューワードを何ワード訳せるのかをまず確認しましょう。
過去の仕事の分量と納期を見れば、どれくらい訳せるかわかります。もちろん、原文の内容を見てからOKの返事をすることは言うまでもありません。
仮にキャパが、2000ニューワード/日とします。
1万ワードの案件なら、だいたい5日かかるということですね。でも見直しの時間も必要なので、私なら1週間で出します。これくらいなら人間的な生活が送れます。
例えばオファーが金曜日などに来た場合で、週末休みたいときは、One Business weekと伝える必要があります。
金曜日にファイルを投げて月曜出せ、というエージェントは多いです。そんなことは言ってられない、と思うなら週末つぶして仕事します。私もそうしてきました。でもこれを続けるとつらいです。
キャパは人それぞれ、また原文によって変わってくると思いますが、あまり速くは訳せません。速く訳せば品質にしわ寄せが必ず来ます。
プルーフリードをしていると、誤字脱字文法の間違い誤訳にあふれた訳文に出会いますが、あまりひどいとエージェントに差し戻し、訳しなおすように依頼します。最初から訳しなおすのはプルーフリーダーの仕事ではないからです。適正な時間をとって、丁寧に訳さないと仕事はなくなります。
今回は納期のお話でした。お付き合いいただきありがとうございました。